泳いで沖縄本島1周 4日目 名護警察署脇-本部港手前のゴリラチョップ岩 15km

 台風が近づいていて風が強いが、うねりはまだサイズが小さく今日はギリギリ泳げそうだ。なんとか瀬底島まで行って、台風直撃中は瀬底島の自宅で過ごしたい。前日夜の時点で台風4号が近づいて来ていたが、

・進路が東に逸れて、午前中はうねりの影響が小さい予報だった
・台風の影響で南東風が強く、追い風だった
・この行程は海岸がなだらかで、海況が悪くなり次第いつでも予定を切り上げることが出来る

ので、状況が悪くなる前、早めの7時にスタートした。泳ぎだすと、名護警察前の海は意外に魚がいる。名護湾最奥部だ。ここを泳ぐのは初めてだが、大雨の後は海全体が赤土色になる所だし、地獄のように汚れていて砂漠のように何もいないのかと思っていたが、そんなことはない。人口リーフのテトラポッドからサンゴが生え始めているところもある。その周りにはハギ類、ブダイ類、スズメダイ類の「どこにでもいる魚御三家」がたくさんいる。意外なほど地獄のようでも砂漠のようでもなかった。「名護のかねひで前でウミガメが泳いでいるのを見た」というのも納得だ。
 泳ぎ出ると強い追い風でぐんぐん進んで楽だが、岸近くは砂や泥が舞い上がって水中視界は極悪だ。自分の手を伸ばすと、指先はなんとか見えるくらい。

 何も見えん。その代わり、追い風でびゅんびゅん進む。台風で大荒れになる寸前の、最後の時間だ。これを逃すと海はぐちゃぐちゃに波立ってしまって少なくとも3~4日は泳げないだろう。ちょっとだけ透明になったところで、マダラトビエイが様子を見に寄ってきた。

スマホを取り出すのにもたもたしていたら、後ろ姿になってしまった。マダラトビエイは顔が変なので、こっちを向いているのを写したかった。砂地でエサを探すのが好きなようで、この辺りで海底をバホバホ掘っているのを時折見かける。

 名護市から本部町に入ってしばらく進んだ辺り、岬状に突き出た先が波立っている、そこのテトラポッドに男性が1人いてこちらを見ている。岸近くの崩れ波に揉まれながら進んでいくと、男性は手を振っている。こっちに来いという仕草だ。この辺で一番波が崩れている場所で勘弁して欲しいが、海上保安庁に通報されないかが心配だったので舌打ちしながら岸へ向かう。波打ち際に行き挨拶すると「なにかの訓練ですか」と言われた。この状況だったら遊んでるようには見えないだろうな。「海上保安庁に電話で聞いたら、流された人がいるという情報はないと言っていたけど心配で」とのこと。心配されるのも無理ない状況だが、見るからに元気に泳いでいるのだから放っておいて欲しい。流されてる奴がさっきの波を泳ぎ抜けられるわけないだろ。「沖縄本島を泳いで一周していて・・・」と訳を話して再び泳ぎだし、うねりが大きくなりつつある海を進む。追い風でスピードが出る。昨日までの時間と距離感覚よりも早く進んで、今日中に瀬底島まで行けそうだ。

 リーフ内の崩れ波に苦労しながらも、本部港手前のゴリラチョップ岩まで進んでいったん上陸。するとさっきの男性の電話が海上保安庁の注意を引いたのか、上陸したのを見ていたようなタイミングで電話だ。名護海上保安署。「今日は本部まで行く予定ですか」と聞かれ「もう着きました」と返す。「この後は泳ぐ予定はありますか、沖へ流されたりしたら大変ですよ」とのこと。そうだろうなあ、沖に流されたら大変だ。「沖へ流されたら大変なのは、事務所にいるあなたよりも、実際に波の中を泳いでいる私の方がよくわかります。」なんてことは全然言わないで、ちゃんと大人の口調でお話しして「はい、ありがとうございました」と電話を切った。
 計画段階で海上保安庁に行った時は、「泳いで沖縄本島を一周」というと、なぜか怒られた。なぜかはわからないが、僕がしようとしていることの何かが彼らをイライラさせるらしい。でも、さっきの岸の男性のような人が通報して、海上保安庁が無駄に出動なり捜索なりしたら困るし、万一遭難したらスムーズに発見・救助してもらえた方がありがたいので、予め意思疎通を図りたいということもあった。「無謀だと思います」などと言われつつ、そして「1人で海を泳いでいて足がつったらどうするんですか?」なんてナゾ質問をされつつ、僕がやろうとしていることのお話をした。練習で瀬底島を何周もしている話をしたら、足がつらなさそうなことは分かってもらえたようだ。「今日も瀬底島を1周してから来ました」「えっ、瀬底島を1周?練習で?」「はい、大体1周8.5キロを3時間くらいです。1日に2周することもあります」「えっ!そうですか。。。おい、海上保安大学校の遠泳訓練て何キロだっけ(ヒソヒソ)」「3カイリだから5キロちょっとですよ(ヒソヒソ)」「(こっちを向いて)そうですか、すごいですね」
 異文化理解は困難というか、あっちはあっちで迷惑だったと思うが、それでも僕が何度か海上保安庁に話をしに行ったのは、準備万全のしっかりした計画で、安全対策も十分、各方面への連絡もOKという状態で沖縄本島を泳いで一周したかったからだ。海上保安庁に知らせずに泳いでしまっても事故などが何もなければ、それで済むし、向こうも無視しておけるから楽だろう。もともと法で定められた特定の大きな港(沖縄本島では那覇港と金武中城港)を除けば、自然状態の海を泳ぐのに許可は必要ない。だから今回の計画では、知らせずに泳いでしまっても法的には差し支えない。そして、それでもまず間違いなく成功すると思ったが、出来る準備ならしようと思って、那覇の海上保安本部に何度か通った。辛かった。
 さて、今日の行程の残りは1kmだ。本部港を越えようか、今日はここまでにしようか迷っていたら、港工事の人に話しかけられた。

「朝、名護警察の前にいませんでしたか。」
「はい、いました。」
「ひょっとしてあそこから泳いできたんですか?」
「はい、沖縄本島を泳いで一周しています。この背中のバッグの中身はテントとマットと服とハブラシです。」
「・・・・・・。」

 朝、歩道を歩いて海に向かっていたところを見られたらしい。この後入港する船の予定を聞いたら、今日はもう定期船はないはずだが、台風から避難して急遽入港する船があるかもしれないとのこと。いろいろ教えてくれた。現場の人は話が早くて具体的でわかりやすい。いい人だ。台風明けの方が確実に船のない状況で港を越えられそうだったので、今日はここで切り上げることにした。瀬底島はもうすぐ近くに見えている。嫁さんに電話して、迎えを頼んだ。とりあえず、台風前に滑り込みセーフだ。
 翌日からの台風通過中は、グシャグシャの波風でいつもの海とまったく違う。一目見て「こりゃ泳げるわけないや」という状態だ。具体的にどういうふうかと言うと、台風特有の周期の長いうねりで海全体が大きく動いていて、しかも水面は強い風で一面に白波が立っている。大きな水のうねりと表面のちくちく白波、2種類の波がある状態だ。台風の真っ最中に海を泳いだことはないけれど、台風が接近しつつある海に入ってえらい目に遭った経験ならある。そういう時、まずリーフの外では大きなうねりの中を泳ぐことになるので、うねりの底にいるときは顔を上げても陸が見えない。水平線も見えない。うねりの斜面しか見えない。うねりの斜面は水の壁みたいに見えて迫力満点だ。そしてその斜面は不規則なちくちく白波でデコボコすぎて、泳いでいると波頭が頭上を越えていき(その間は水中)、越えたら頭はスポッと水の壁から出て、下に落っこちる。そのまま顔面からバチャンと着水する。着水するたびにスピードはゼロになる。全然進まない。困る。だから岸に戻りたいと思うが、顔を上げても回りは水だらけで岸なんて全然見えない。岸はうねりの頂点に乗った時にチラッと見えるだけだ。そしてリーフ際では馬鹿でかいウネリが轟音を立てて砕けていて、あの波に巻かれたら絶対死にそうだ。いつもリーフ際でにぎやかに泳いで回っている小魚はこういう時どこに避難しているのだろう。台風が過ぎた後に見に行くと、ちゃんと元通りそこにいるのが不思議だ。
 結局その時は谷川みたいな勢いで流れているリーフカレント(離岸流と似たもの。岸から離れる方向へ流れる。そこは波が立たない)をシャケみたいに遡って、遡り切れない流れの場所は潜って海底の岩をつかんで這い進んで、なんとか波に巻かれずにリーフ内に入れた。入れたと思ったら、リーフ内はリーフ内で水中は砂が舞い上がり、真っ白で水中視界はゼロで、しかも激しく流れている。苦しい道のりの末、砂浜にたどり着き、へたり込みながら「生きてて良かった」と思った。そういうわけで、台風通過中の海は泳げない。

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